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奇跡の会社(クリステン・ハディード著)|書評

経営者も成長する

 

組織の長というものは、完全無欠でなければならないという意識が世界中どこにでもあるように思います。しかしながら、そんなことはありえません。冷静になればわかることですが、完全無欠の人間が現在、過去に存在していないのですから、どこの組織のトップもダメ人間なのです。

 

それを批判したり、批難するのは簡単です。しかし、それではどの組織も存在することができなくなってしまう。組織のトップも、組織自体も、失敗し、成長していくものなのです。それを許す空気がなければ、あらゆる企業、組織は大きくなる前にポリコネの前に屈して潰れることになります。そんなわけで、私はある程度のお目こぼしは必要だと考えるんですよね。

 

本書のすばらしいところは、酒を飲んで乱痴気騒ぎをぶちかますハートの強さでも、学生を組織化した清掃業で新世代のリーダーになった輝かしい功績でもなく、失敗を包み隠さず伝えたところにあると思います。

 

通常、人間は立派に見せようと見栄を張る。それをやらなかった。情けないリーダーであることを開陳し、世間の笑い者や批判の的になることを受け入れた。そのすごさたるや。また、人は失敗からしか学べないのですから、こうして他人の失敗例を見られることは、転ばぬ先の杖であり、これほどありがたいことはないわけです。深く感謝をいたします。

 

私も雑誌やメディアの取材を受けますと、必ず「成功体験」を求められます。自分も出版の世界から出てきた人間なので、ついつい編集者や記者が求める答えを与えそうになるのですが、そこを踏みとどまって「失敗しました」「この事業はダメでした」「私はダメ人間です」と伝えるようにしています。もっとも、誌面に載る際には「成功した人」「気骨のある人」みたいな書き方になってしまっているのですが……。

 

これ、そろそろやめないといけないなと編集者時代から思っているところです。

他人の成功体験を求め、そういうものが載っていると買ってしまう短絡的な読書はそろそろやめよう、と。本当に人を成長させるのは失敗体験です。失敗を語ってくれるほうが、本質的に役に立つのに、世間はいつまでも成功事例を追いかけます。

 

一昔前にやっていた、プレゼンしたら金持ち社長が金を出す番組。あそこにいた人たちは相当数が……ですし、ビジネス書の編集者をしていましたから、ビジネス書の棚に並んでいた人のなかでも結構な数が……となっていることを知っています。彼らはたまたま時流に乗っただけだったのかもしれません。経営の世界には正しいことをしても失敗することがあります。時期が速かったり、運が悪かったりといった要素が絡むからです。しかし、露骨な失敗をしているのに成功することはまずありません。人の不正や、経営者の弱さゆえに起きた失敗を包み隠しても、会社が健全に成長することはないのです。

 

エエカッコしいの経営はやめましょう。そして、社会人も含めて全員が、エエカッコしいをやめましょう。そのエネルギー、無駄ですよ。大きく見せたって、実力が増すわけでなし。衣ばっかり分厚いエビ天みたいでみっともないだけですよ。それはそれで美味しいですけど。

 

彼女の失敗と苦悩、飾らなさから学べることはたくさんあります。

悪い見栄の虫が湧きそうになったら、その都度読み返していきたくなるような一冊でした。

 

 

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