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じんぶんラボ|徳島に、人文の遊び場をつくりたい

人文の遊び場とは

ここでは人文という言葉を人と文化を指す言葉として使っています。

私は10年ほど前、まだまだ普及していなかった電子書籍を普及させるためにGoogleの展示会に出て行ったり、著名な印刷会社とプラットフォームを作るためにあれこれ動いていました。これからはデジタル全盛の時代になる、紙は減り続けるに違いないと思い、懸命に本のデジタル化を目指していた時期があったんです。そんなある日、本の装丁家さんの一言で、生き急いでいた足を、ハタと止めることになりました。

その方は、電子書籍が普及すること、自分の過去の全著作が電子アーカイブ化することを認めたうえで、

「俺、紙フェチなんだよね」

とつぶやかれました。ショックでした。もちろん、私も紙フェチで、電子書籍を買ったうえに紙の本を買うような人間なのですが、紙の本の編集者でありながら氏のように紙と心中する覚悟はありませんでしたし、より便利なものに駆逐される世界を受け入れられない人たちをどこかで見下し、「終わった連中」などとみなしていた部分がありました。でも、そのとき、その一言で、人は手触りなくして人の形を保てないと感じたのです。意味がわからない? そうでしょうとも。わからないのは当然です。私にだってわかりません。わかっているのは、今後もデジタル化が進展していくなかで利便を享受できるよろこびと、それと同時に沸き起こる違和感に静かに怯えていたということくらいでした。

 

そんな得体の知れない違和感の正体が、つい最近になってようやくわかるようになってきました。あらゆるものがデジタルになり、人が機械のように働いたり、機械のペースで働かざるを得なくなる逆転現象への恐怖、人が不在で構わない時代がくることへの恐怖だったのです。30年前なら、上司のいったことを書類にペンで清書する仕事がありました。どこかへ営業に行こうと思えば、入念に地図を調べ、人に道を聞いて歩かなければなりませんでした。しかし、いまやそのような手間はありません。スマートフォンに訊けば、瞬時に答えはわかります。あまりに即応的です。もはや機械のペースは人間を遥かに凌駕して、そのペースに人間が使役されている。もうすでに人と機械の逆転現象が起きているのです。こうなれば、人が不在で構わない時代はすぐそこです。このことへの漠然とした不安と不満が、違和感の正体だったのです。

仕事を機械ないしはAIが処理するようになったとき、人間は一体全体、なにをすればいいのでしょうか。こんな私が気づくようなことです。すでに多くの人が悩まれているようです。仕事がなくなれば食べていけないと不安視する人もおられます。ただ、私はこのことにはあまり悩みませんでした。機械とデジタルの時代にあっては、人は人の役割を果たせばよいとずっと前から確信していたからです。そして、これからの時代、人が果たす役割は、生身の存在として、手触りや実感できるモノゴト、格好をつけていうならば「文化」とでもいいましょうか、そういったところに注力することだろうと考えています。従来は遊びや余暇活動でしかなかったこれらのモノゴト。取るに足りないものが、遂には人間が為すべき「すべて」に置き換わると思うのです。

そんなバカな!と思われるかもしれません。でも、人類は獣から身を守り、多く食べるためにコミュニケーションし、協力し、脳味噌を大きく膨らませたことで、歌や踊り、神仏祭祀といった文化を生み出してきた過去があります。あらゆる学問もそうですし、デジタルという文化さえ、この範疇にあるわけです。

ちょっと考えてみてもらえればわかります。例えばフィギュアスケート。フィギュアは氷の上という危ない場所で、特段の意味も、なんらかの物品を生み出すこともなく、飛んだり跳ねたりするだけです。ハッキリいって、仕事的価値はゼロです。つまりは、従来的価値でいえば存在意義がない。でも、多くの人が支持しています。プロと目されるほどに先鋭化すれば、どんなものでも仕事となるのです。舞踊や信仰がそうなったように、学問やプロスポーツ、まだ見たこともないなにかが、これからの人間の生きる意味であり、仕事になるのだと思うのです。それは時に、得体の知れない「ナニカ」な場合もあるでしょう。職業でいえば、ユーチューバーやプロゲーマーがそうです。とても子どもに勧める気にはなれませんが、前者は芸能人やタレント、後者はプロ野球選手とジャンルが異なるだけで構図としては同じです。

得体の知れなさから迫害されることはこれからもあるでしょうが、過去の進化の過程から見て、これらはますます深化、発展していくはずです。繰り返しになりますが、これからの人間は、いままで遊びと思われていたことに真剣に打ち込み、付加価値をつけ、より多く考え、発想することが「仕事」になるのです。ですから、当面、人間が存在して創造性を発揮するうちは、仕事がなくなるということはありません。仕事はあって当然のものや、与えられるものから、自分で創るものになるだけです。ですので、人類全体としての破滅があるとしても、まだもう少し先の話です。

でも、ちょっとまずいこともあります。文化の発展よりデジタルの発展が速すぎて、なにもかも電子の世界で決着できてしまうということです。それらはこのブログのように人と人を簡単に繋ぐ一方で、生身の人体同士を遠ざけてしまいました。特に地方においては人が集まる場所がなく、家と職場をぐるぐる回るだけの生活が一般化し、人間がより人間らしくあろうとする力、気力すら失わせていると思うのです。地方なればこそ必要な人間力が失われ、従来型の仕事によって疲弊するのであれば。どうせ創造性まで失ってしまうのなら、若者が刺激や仕事がある都会志向になるのは無理からぬことです。そしていつかは、先述のとおり職場というものもなくなる。そのとき、人はどうやって人と物質的に繋がればいいのでしょう。それも含めてデジタルや技術に補完させてしまえばいいのでしょうか? 私は、どうもそれだけは受け入れられないのです。便利に使うデジタルと、不便に楽しむアナログがあってはじめて、人の心理的豊かさと創造性が生まれるような気がしてならないからです。

そこで私は、地方にいままでにない形で、学びと遊び、これからの人間の仕事を創り出す場所を用意したいと考えた次第です。英語圏では「サードプレイス」などといわれますが、家と職場以外の居心地の場所。それも、カフェや図書館といった紋切り型のものではなく、従来の酒場や賭場のような大人の遊び場でもない、いまの若者にとって居心地のいい場所。より考えることと、肌で直接感じることに特化した、ホビーな世界を創ろうと考えたわけです。

と、高邁なことを語っていますが、実はちょっとだけ下心があります。それは、私が病弱で、年中寝たきりになってしまうこと。加えて、目が不自由になってきたために車の運転などの遠出が難しくなり、自分が出かけるのではなく、皆さんにきてもらいたいという下心です。

これを成功させて、皆さんのテイストで、地方にそれぞれ、小さなホビーの拠点が生まれ、人が人らしくある、新たな技術や価値観の創造が生み出していってもらいたいと思います。また、人と人の繋がりのなかで新しい仕事の形が生まれたり、相互扶助や発展が「自然に」起こればいいなとも考えております。地方に少ない、学校を卒業した若者たち居場所づくりから、人口の維持、Uターン等帰郷の支援ができれば申し分ありません。

まだまだ構想段階で、実現可能かどうかは不透明です。私一人でできることでもありません。もし、皆さんのご協力やご提案があれば、お寄せいただければと存じます。

 

それで一体、どんなことをするの?

 


当面は、私が収集している人文系の書籍(日本の哲学や文学全集、地理学といった図書館でも見かけないものや資料類)を並べるオープンスペースや、釣りやボードゲーム、ビデオゲームといったものを並べて、共通の趣味の人間同士や、違う趣味の人同士が集まって刺激しあい、パチッとスパークが起きるような場所にできればと考えています。釣り人が文芸好きだったり、レトロなゲームマニアが歴史好きだったりすることは、案外外の世界へは知られていません。いくつかの趣味を組み合わせ、互いの心に火を灯しあえる無二の場所になればいいな、と思っております。できることなら、文化や学術の総合拠点にしたいという野望もございます。かっこいい言葉であらわせば、リベラルアーツの拠点、ですね。

 

地方には学ぶ場所が不足していて、そのために大学などを求めて都会へ行き、高度な人材が集まるために企業が都会へ集中し、人口が一方通行になってしまうのです。学ぶ場所をつくることは、すなわち、働く場所をつくるための第一歩であり、遊ぶ場所をつくることは、学ぶ場所、働く場所を維持することにも資するものです。いきなり一流大学を設置する! なんてことはできませんので、まずは多様な遊びを提供し、次に学びの場から独自の文化を創造し、産業へと結びつけられればと考えています。

 

あまりに「ふわっと」した内容でお恥ずかしいのですが、まずは「ふわっと」はじめてみたいと思っています。いきなりガチガチでは門戸が狭すぎます。一緒に文芸談義やモノポリーでもしながら考えていきましょう。また、その際に私に色々と教えてください。郷土史や地理学、民俗学に哲学、経営・経済学、デザインやサブカルチャー、スポーツ等々いろんなことに興味があります。身ひとつでは足りないほどに。

 

皆さんが打ち込む、身をもち崩すほどに好きな「ナニカ」の価値を披露してもらいたいのです。それこそが、これからの人間の生きる意味であり、これからの仕事になると思います。あなたの価値をこれでもかと示してもらえれば幸いです。

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