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幸田露伴『努力論』ざっくり解説・解題(現代語訳版)トップページ

『努力論』が書かれた時代こそ、昭和以上の転換点だった?!

現代人(昭和・平成人)は、時代の激変といえば、ついつい戦争を想起しますが、実をいうと日本の国がひっくり返ったのは江戸時代から明治時代なんです。それまでは小さな国々の寄せ集めだった武家社会が、ひっくり返って廃藩置県。国の大きさも、統治する人も方法も全部変わったわけですから。チョンマゲ(日本)からザンバラ髪(洋風)へ。文化も大転換しました。本質的にはこちらのほうが大騒ぎだったはずです。

 

そんな波乱の江戸から明治時代には、様々な新しい考え方が披露されるようになりました。そのなかのひとつが、幸田露伴の『努力論』なのです。(出版にあたって序文が書かれたのは大正元年ですが)

 

幸田露伴という人物についての解説は改めてすることにして、早速、どうしていま露伴の『努力論』なのかというお話をさせていただきたいと思います。

(本稿の最後に努力論の各項目へのリンクを掲載してまいります)

 

なぜいま、幸田露伴の『努力論』なのか

 

努力の大切さや必要性はたくさんある書物のなかで散々に語ってこられたものです。眠くてたまらない道徳の授業や、人生の先輩たちからしっかり教わったことでしょう。もはや学ぶことなどないとも思える努力について、どうしてまた、100年も前の人間の努力論を聞かねばならぬのか。それは、ねじ曲げられた努力ではなく、もっと根源的で人間的な努力のかたちを再確認できるからなんです。

 

幸田露伴の『努力論』の特徴

 

幸田露伴の『努力論』には、精神論が乏しいのが特徴です。もちろん、当時から気合い、根性という考え方がなかったわけではありません。しかし、そういった精神論偏重主義が蔓延したのは昭和の戦争によるものです。幕末も明治時代にも戦争はありましたが、戦争の範囲がごく一部(主に武士の争い)であるか、国民のほぼすべてが苦しむようなものではなく、なにより勝った戦争でした。一方、太平洋戦争は違います。ほぼすべての国民の生活に影響し、敗れる戦争でした。この戦争以降、国民の人生や努力に対する考え方が一変してしまったのです。人間は生まれたらわざわざ苦しい思いをして、向き不向きなど関係なく、成功の可能性のないようなことを一生懸命やることが「美しい」という価値観が根付いてしまった。私はこれが戦争のなかでも最悪の後遺症だと思っておりまして、戦後70年、80年という現在においても続く、呪いのように感じてすらいます。

 

ご批判覚悟で申します。苦労が美しいというのは間違いです。努力が美しいというのも少し違います。夢に向かっていることが美しいのです。そこには希望がなくてはなりません。希望のための苦労や努力には、総じて「未来」があります。そうでないもののために人生を費やすことは、人としてもったいないことです。幸田露伴は『努力論』のなかで、とてもオーソドックスに、努力について語ります。昔の本だからと袖をまくって古書や古い文体に挑んだら、基本中の基本すぎて、面食らってしまうかもしれません。そこにあるのは戦中戦後の「苦労イズビューティホー」な価値観に毒されていない、根源的努力が論じられているからです。

 

根源的努力というのは、人が人として生きていくための努力です。なにか大きな事柄のために無理をして自分を犠牲にする、全体主義的な滅私奉公する努力ではありません。今日もご飯が食べられて、明日もきっと食べられる。昨日こなした仕事が、今日の暮らしを少しよくする。その程度のことです。いま、そうした努力を口にすることすら憚られる時代になっている、と感じるのは私だけでしょうか。

 

また、露伴の示す根源的な努力は、「人間はもう働かなくてもいいのではないか?」という話が聞こえてくる現在において、これからの人間のありようすら指し示してくれているように思われるのです。人は人として生きていく。そのための努力をすればよいと許してくれているようにすら感じます。当時も欧化によって様々な暮らしが楽になったことでしょう。身分制も吹き飛んで、武士達は既得権益を失い右往左往、町衆や農家は便利で開放的になったけどなにをすればいいかわからない。そんな時代に書かれているからこそ、現代に通じるものがあると思うわけなんです。

 

いま、未来のない努力に苦しんでいる人、AIだロボットだと先の見えない時代に不安になっている人に読んでいただきたいと思い、私なりに『努力論』に収められた全作品を個別に取り上げつつ、おおまかな解説・解題を行わせていただきました。また、より短時間にお読みいただけるよう、証拠として列挙される事例や露伴自身のエピソードの部分などはバッサリ省略し、いいたいことだけを選り抜き、現代語訳(?)してございます。露伴の思想をすべて味わいたいという方は、ぜひとも岩波文庫版や岩波書店の全集を手にしてみてください。

 

拙い内容ではございますが、みなさまのお役に立てれば幸いです。

 

内容のご指摘、出版、コラボ等ございましたら、ツイッターまたは下記メールアドレスまでお願いいたします。
(2019年2月 サトウ責)

幸田露伴『努力論』各項目まとめ

 

 

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