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小売再生 リアル店舗はメディアになる ダグ・スティーブンス著

小売再生 書評

 

欧米の本、とくにアメリカのビジネス書は基本的に冗長な実例集が間に入り込んで水増しされるのが基本です。これがいいことだと思われているのかどうか疑問ですが、これらをすっ飛ばしてしまえば、本書のいいたいことはとても単純明快です。

 

  • 従来の小売業はもうダメ
  • SNSのマーケティング効果は限定的
  • 体験型のビジネスをしないとお客さんはもうこない
  • デジタルな技術革新が小売を激変させる

 

ネット通販の台頭で、なんでもネットで買えるようになりました。よほど緊急性がなければネットで頼んでおけば届く時代です。小売店はその割を思いっきり食っていますよね。小売店に行き、気に入った商品を見つけたらバーコードを読み取ったり、商品名をスマホで検索して、一番安いところで買う。場合によっては、商品のレビューを見て判断をする。そちらのほうが店員のセールストークを聞くよりずっと信じられるという人も多いわけです。

 

この流れはもう止まりません。だから、小売店はそれ自体がメディア(日本語でいうとステージのほうが近いかもしれません)のような存在になって、体験させ、感動させ、買おう!と思わせないと、同じものを売ってるのだから勝てないですよ、という話に進んでいきます。感動させるには、バーチャルリアリティなどの技術も駆使したり、人間の店員ではないAIにコンシェルジュをさせたりという工夫も必要だというんです。

 

でも、ちょっと待ってください。デジタル技術や仮想現実というものは、それこそお店に行ってまで味わう必要がありませんよね。なにより、同じものを売っているという事実はどうあってもひっくり返らないのですから、安くて、はやくて、便利なところと勝負になるはずがないんです。社会貢献型の「ここで買うと、鎮守の森を守る活動に10%寄付します」のような特殊な付加価値を与えるお店ですら、バーチャルな世界でやろうと思えばできるわけです。デジタルを使え、バーチャルを活かせ、体験型にしろと著者がいえばいうほど、同じことがネットでもできてしまうし、ネットのほうが親和性が高いと感じてしまうのです。

 

もう、人間は一歩も動かなくていい時代がきそうだというのに、提案している内容が付け焼き刃な感じがするのは私だけでしょうか。小売店の店頭にいる店員は要らなくなるので、スーパーアンバサダーになって、熱狂的なファンを獲得し、小売を変えていくことが必要だし、そうなるだろうという予測は、どうして「実店舗」でないといけないのかがわかりません。現実問題として、すでにユーチューバーが商品を紹介して食べていますし、ユーチューバーすら仮想化され「バーチャルユーチューバー」なるものが存在します。これがさらにAIによって完全に自動運転されるようになれば、人の介在する余地はなくなります。スーパーもアンバサダーもなくなってしまうのです。

 

体験型小売ビジネスのために、大空間を確保したり、大規模なリフォームをしたりする間に、その投資が完全に無駄になるほどに社会にIT技術が浸透してくるでしょう。お店を改装するのに半年、社員がその仕事の形に慣れるのに半年、世間に周知されるのに3年と考えたら「もう遅い」のです。だとすれば、中途半端にデジタル化の流れに抵抗するのではなく小売はさっさと実店舗をたたみ、デジタルの世界に引っ越すべきという答えが出てしまいます。

 

そのことをこの著者は故意に無視しているか、気づいていないのか。

気づかないなんてありえないだろうと思って、見返しの著者プロフィールに目をやると、肩書きに「小売コンサルタント」とありました。あ……そうですか。私と同じコンサルの部類……それで提灯本を……。あまり酷いことをいうのはやめておきましょうか。私自身の首を締めますもんね。実店舗小売の信奉者でなかったとしても。

 

では、この本はまるっきりダメだったか。いえいえ、そんなことはありません。通読して、やっぱり従来の小売は消滅するという確信を持ちました。そして、生き残る小売とは、自分で商品をつくり、直売する小売だろうとも思ったわけです。ヨソと同じ品を並べるだけではダメです。いままでは大量に工業的に生産された品を並べるのがハイソで上等な世界でしたが、今後は自分で商品を少数作り、それを直売するタイプでなければ実店舗を構えても意味がない時代になるんです。職人さんの縁側のお店が、実店舗では最強になる。次に、八百屋さんや魚屋さんのような、目利きのいるお店が強くなると考えられます。

 

従来の小売業がどんなにデジタル化しても、同じことをネットはたやすく実現しますし、八百屋さんだってやろうと思えばできますよね。となれば、手仕事の職人さんだってできるはずです。だったら、大量生産品は安くて、はやくて、便利なネット通販になるのは自明でしょう。

 

著者を含めた実店舗型の従来の小売業の支持者は、実際の品をみないことには買いたくないという顧客へ訴求することで生き残れると考えておられるようですが、店舗を持たず、商品の梱包から配送までAIとロボットで処理する倉庫型小売が登場すれば、人件費を筆頭になにもかもが安くなると思うんです。その浮いたお金で、お客さんに気軽に注文してもらって、「なんか思ってたのとちがうなぁ」と感じたら返品してもらうということにすれば、実物を触ってから買うという問題も解決できてしまうのです(一度注文して手にすると、なんか違うと思っても返品しないのが人間です)。

 

じゃあ、やっぱりこの本の存在価値がないのかといえば、そうではありません。デジタルな時代に小売の世界にITがどう浸透してきているかはよくまとまっていますし、実店舗型小売が復活できると強弁すればするほど、反作用的に生き残れそうもない理由が見えてくるので、反面教師にするにはちょうどよいと思います。

 

なんだか煮え切らないレビューになってしまいましたが、みなさんも小売がどうなるかを考えるきっかけにお読みになってみてはいかがでしょう。全部がぜんぶ、IT化、AI化すると、ショップ店員や店舗運営者は全員失業です。人あまりになれば、みなさんの仕事だって大きく変わるはずですから、「私には無関係」ではないはずですよ……。

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

  • 作者:ダグ・スティーブンス
  • 出版社:プレジデント社
  • 発売日: 2018-05-30
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