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【書評】エンジェル投資家(ジェイソン・カラカニス著)

寝たきりになっていた私に『エンジェル投資家』を献本してくださったかた、本当にありがとうございます。この場を借りて改めて御礼申し上げます。なお、「起業するから金貸して」というための呼び水だとしたら「要件を聞こうか」とだけ申し上げておきます。

 

エンジェル投資家とはなんぞや

 

エンジェル投資家は、ベンチャー企業に投資するファンドなどが見向きもしない、「今日から社長だ!」「いまから個人事業主!」といっているような夢想家の起業家の絵空事に耳を傾け、お金を出してあげる人たちのことです。天から舞い降りた天使のようだから、エンジェル投資家です。これは起業しようという人にとってはすばらしい存在ですが、貸し手としてはあまり優秀とはいえなさそうです。なぜって、人のいい旦ベヱ(旦那のこと。ギャンブルでいう金銭感覚のないカモのこと)だからです。でも、著者のジェイソン氏はウーバーなどに投資(ウーバーに1000万円出して100億円にしたそうです)して大金持ちになったようですし、旦那衆である脇の甘いエンジェル投資家が一体全体、どのようにして投資で成功したのか。そのノウハウや考え方をかなり詳細に書いています。ただし、日本で真似しようとしても難しいでしょうね。なぜって、起業家が溢れかえっているシリコンバレーのような場所はないですし、投資に超否定的な国ですから。人と知恵とお金が集まっているからこそ、あっという間にシリコンバレーから数千億円規模の企業ができるんです。日本になぜジョブズが出てこないか? などとワケワカンナイことをいう前に、できそうなことからやってみて欲しいですね。東洋にシリコンバレーをつくるんです。

 

本書を読んで、日本が持つ重苦しい空気を一掃し、日本のどこそこにシリコンバレーを打ち立てる! 起業家よ集まれ!! なんて大号令をかけてくれる人が出てくるとおもしろいんですけどね。ひとりでは無理でも、何十、何百、何千人とエンジェル投資家が集まって、そういう場所をつくるというのもいいかもしれないなと思いますが、はてさて。

 

 

投資は悪いことなのか

 

私は投資というと、嫌なイメージがあります。日本人はおそらく、総じてそうなんですね。お金は汚いもので、稼ごうとする人間は悪人だと染み付いている。ただ、私の場合はそういう部分よりも、投資と投機が混ざってイメージされていたり、投資や借金によってゴタつく姿を見たくないという思いから、投資にいいイメージを抱けないでいるのです。

 

借金でも投資でも同じですが、お金を借りた側、出してもらった側はいつの間にか貸した人間を疎ましく思うものですし、貸した側が人ができていて事業に失敗しても以前と変わらぬ交友関係を望んでいても、疑心暗鬼に陥って拒絶したり、面罵したりするものです。そういう場面を見たことがありますし、ニュースでも殺人事件に発展したりしていて、お金以外のリスクがありすぎて近づきたくないなぁ、と思ってしまうのです。

 

個人事業主をやっていたときも、就職して従業員をやっていたころも、現在の役員でも、貨幣経済のなかで生きてお金を使い、または稼ぐ以上、お金は汚いものだ、たくさん稼ぐ奴は悪人だという考えはほとんど持っていないんですよね。もちろん、詐欺的なことや倫理的問題がある場合は別です。そこは切り分けないといけません。

 

汚いものだといいながら、一方で日々稼いで使うなんて「二枚舌」じゃないですか。金を稼いで使うことが罪だとするなら、そのうえまだウソまでついているんですから、二重に罪ですよ。いきなり実刑です。嘘をつくと天罰覿面(てんばつてきめん)だと教わって育ったので、天罰だけは食らわないようにしようと小さいころに決めたような記憶があります。そのせいか、稼ぐことを敵視しないですし、何十億円と稼ぐ人をみてもなんとも思わなくなったのかもしれません。

 

さて、前置きが長すぎたように思えますし、投資が悪かどうかについて考えましょう。私はいいイメージを持っていないのに、悪ではないと考えます。それは、儲かるか儲からないかじゃなく、投資する人がいないと、人間なにもはじめられないから、です。

 

ちょっと考えてみてください。みなさんの多くは就職したり、しようと思っているでしょう。就職するということは、採用するということです。採用した時点ではその人間が使えるかどうかわかりません。新卒者で新社会人ならば、当面は給料ドロボーです。この給料ドロボーを雇うという行為だって、広義に見れば「投資」です。企業が教育し、戦力化し、利益をあげるようにするのです。

 

これって、創業間もない起業家とエンジェル投資家の関係そのものだと思いませんか。夢だけあるアンポンタンが新卒で、投資経験や企業顧問としての知識、人脈を持つ投資家が企業主です。お金を与え、ああしろ、こうしろといって、一人前にする。これが正しい投資の形なんだと私は思います。

 

いいや、そんなことはない。金だけ出して、口を出さないのが正しい投資家だ! という向きもあるでしょうが、それなら投資してもらっちゃいけないんです。自分の会社は自分のものだと思うなら、株式は1株たりとも他人に渡しちゃいけません。自分が絶対君主であるためには、他人の力に頼ってはいけないのです。で、それで会社をどう運営するんでしょう。運営できないから株式を買って(投資して)くださいというのではなかったのですか? 社会経験ゼロで誰の力も借りずに起業する方法はなきにしもあらずですが、それはあまりにも危険です。その人生を賭けた投資は、割が悪すぎます。破滅の道だけそこかしこにあって、当たりくじは入ってないかもしれません。口出しされても戦力化してくれる会社のような仕組みに頼ったほうが懸命な場合のほうが多いのではないかと思います。もっとも、アドバイスが適切ではなかったり、リターンだけ要求してなにもしてくれない投資家と付き合うのはさらなるリスクを抱え込むことにもなりかねませんけども。

 

 

この人って本当にエンジェル投資家なの?

 

どうもジェイソン氏の著作を見る限りには相当に利を出していて、リスク回避の手も打っているようですから、本当の旦ベヱとしてのエンジェル投資家ではないように思います。一番最初に金を出すけれど、取るものも取る、普通の投資家といった感じです。これを欲深だと非難することは簡単ですが、だからこそ成功してお金が集まり、人が集まり、新しい投資案件が集まって、また成功し、たくさんの起業家たちが一人前になっていくのかもしれません。エンジェル投資家という言葉の響きから、白馬の王子さまや居合の女神さまを想像しているとショックを受けてしまいますが、それでもお金もノウハウもないなかで成功への道筋をつけてくれる投資家は貴重なわけで、一概に否定するものでもないなぁと思う次第です。

 

起業家の夢を一緒になって叶えていくというのは本当に辛く、同時に楽しい仕事なのだろうなと感じます。私は日々の薬代にも窮するような非経済的生活者ですが、こういう仕事の現場を覗き見てみたいと思います。そのための見学料として、10万円や20万円の投資をしてみたいな、なんて考えを抱くようになりました。プラチナチケットを買ったと思えば高くもないでしょう。あとは、地域の起業家と、地域の投資家を結びつける仕事なんていうのでもいいですね。熱意がほとばしる現場に身を置いてみたいものです。最高のドキュメンタリーをみられるわけですから。

 

繰り返しになりますが、(エンジェル)投資は悪じゃなく、起業家の戦力化なのです。先立つものがないとなにもはじめられないわけですから、その道筋をつけてあげることです。相場で揉み合ってる株を買うのとはわけが違います。そっちは投機です。お金が増えるかどうかのギャンブルをしているようなものなのですから。私がするなら、やっぱり投資のほうがいいなぁ。

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