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『1冊3分で読めて、99%忘れない読書術 瞬読』レビュー

『瞬読』は1分で38万字読めて99%忘れない?

 

私はあまり本の悪口を書かないようにしています。というのも、私にはどうにもならなかった本でも、誰かにとってはとてもいい本ということがあるからです。本来、書評などというものにすら懐疑的で、自分が本についてあれこれいうのも、誰かが述べるのも半歩だけ引いて見ている。そんなヘンな奴なんです。でも、この本についてはちょっといいたいことがあったので、取り上げることにします。

 

瞬読は結局、速読術です

 

いままでなんども速読術に騙されてきた人、多かろうと思います。私は元々、自己啓発書やビジネス書の編集者ですから、こういった本や企画を読むのが抜群に速くなりました。自慢になっちゃいますが、1ページ3秒以内です。どうしてそんなに速く読めるのかですけど、私が頭がいいとか、速読術をマスターしているからとかじゃないんです。単に、知っている内容しか書いていないから、読み飛ばせるというだけなんですね。例えば『桃太郎』のストーリーはみなさんもご存知だと思います。流れがわかっていて、それに沿ったことしか書いていなければ、ページをめくる手を上げても、内容を取りこぼすことはありません。それが速さの第1の秘訣です。

 

また、自転車の運転や水泳を思い浮かべてください。右足の次に左足のペダルを漕ぐだとか、そういったことを考えなくてもできるほど体が覚えている状態になれば、本を読むのが作業になります。頭を最小限しか働かせず、必要なところだけ読んで、知っているところは頭に入れない仕組みが脳のどこかに生まれるみたいなんですね。これが私の速読の第2の秘訣です。ですから、見たことも聞いたこともないような話、西洋哲学の小難しいアレコレだとか、人名すらまともに発音できないような見慣れない古代アラブの歴史の記述、小説のように読み飛ばしてしまえばなんのために読むのかわからないような本は、当然、そんなスピードでは読めません。なんどもいったりきたりしながら、理解したり、記憶を定着させるのに手間取ります。年間600冊読み、ひどい時は月に100冊買う大馬鹿野郎でも、そんなものです。どんなに速く読めたって、知らない言語は読めませんよね。日本語で書いてあっても、知らない単語や考え方が出てくれば、(おそらく)日本一の頭脳をお持ちの方でも「え? ちょっとまって……」となるはずです。

と、こういう話を踏まえたうえで、本書の話へ入っていこうと思います。

 

瞬読なのに、いつまで経ってもはじまらない本編

 

まるで予告編ばかり流す映画館のようです。映画館はそうする必要があります。CMを流すことでお金が儲かるからです。配給元にCMを流してね? といわれているとかなんとか。それが嫌ならセルDVDを買って家で見ろ。というビジネスですからね。本編前にCMをみるのもまた一興というもの。でも、書籍は違いますよね。お金出して買うわけですから、さっさと本編をはじめてくれないと困ります。仮にも瞬読だなんていって、現代人に必要な情報処理速度をどうのこうのといっているのですから。にも関わらず、本書は4分の1ほどを「瞬読」できればどれほど人生がよくなるかに割かれています。

 

次の4分の1はいままでの速読といかに違うかが書かれ、どのように訓練すればいいかが書かれます。でも、これらは過去の速読とほぼ同じ。表紙に「これまでの速読はいったん忘れてください」とありましたが、いったん忘れてもらって、もう一度教えるつもりとは、見上げた根性だとすら思いますね。うーん、ちょっと怒りが込み上げてきました。

 

じゃあ、残りの半分はなにが書いてある?

 

半分を過ぎたあたりから、ついに本編がはじまります。この瞬読の心臓部です。

バ ス ケ ボ ー     ス パ ゲ テ
ッ ト ル         ッ ィ ー

どうですか。なにが書いてあるかわかります? これはかない模式的にレてあるのでねかりにくりのですが、多くの人間は文字をひとつずつ追いかけて読んでいないんですね。ひとつずつ追いかけていると、単語として理解できませんし、前後の文字と文字とをくっつける作業がその都度必要になって、理解に相当に時間がかかります。斜体になっている部分のように、誤字があっても理解できるのは、前後関係で把握できているから。つまりは慣れです。

 

上記の枠内の文字列が、「バスケットボール」や「スパゲッティー」のことを書いてあるんだろうなと感じられたとしたら、それはあなたがすでに文字をカタマリで理解しているという証拠です。クイズ番組でバラバラになった文字をならべかえる問題がありますが、あれに近いですね。本を読むのが速い人は、この「塊」で理解する量がとても多いのです。私の場合ですと、勝手知ったるジャンルであれば1ページの半分ずつ、合計2回眺めればおおよそ理解できます。だからこそ3秒で読めたり、本書自体を5分かからず読めたりするんです。

 

あらためて申し上げますが、私はすごいんだぞ! といいたいわけじゃないんです。これは多くの方がすでに持っている能力で、別に特殊な才能でもなんでもないということをいいたいのです。内容を把握しており、さらに慣れれば誰でもそうなりうるんです。高い教材や瞑想してからはじめる速読スクールなんかに通わなくてもできることです。事実、私はそんなところへ行ったこともありません。

 

あとはまあ、お定まりのパターンです。速読本は大抵、「慣れ親しんだ本を開いて速く読めるようになった実感を得ましょう」などといいます。昨日より今日のほうが速く読めるようになった!と受講者をよろこばせるためなんですが、すでに何度も読んで内容を把握している本ですから、速読できるのは当たり前です。速読しようと思ったことがない人に、速読しなさいといえば、劇的に速く読めるようになるのは当前ですよね。

 

やはり本書でも内容を知っている本で練習させようとしていますが、これでは結局、聞いたこともない、はじめて知る世界相手では速読なんてできっこないからなんです。じゃあ、速読なんて意味ないじゃん。ちゃんちゃん、というのが従来の速読本への否定の流れでして、本書もやっぱり同じです。もっとも、「知ってる情報を躊躇なく読み飛ばす能力」と「知らない情報を漏らさない能力」はあったほうがいいので、速読全否定というわけでもないのですが、画期的方法であるかのようにいうのは不親切を通り越して「詐欺的ですらある」と思うのです。

 

本書のすごいところは半分まで本編をはじめず、半分以降は上記の枠内にあるようなドリルで埋めて、最後にスクールに通いたくなるようにチラシを挟んであるところですね。その意気や潔し、です。

 

 

【蛇足】

 

こんな内容でいいのでしたら高額な教材も受講料も、行き帰りの電車代もいりませんので、この書評が役に立ったと思ったかたは私に100円ください。それを軍資金に本を買って、みなさんに役立つことを考えたり、紹介して還元しますので。情けない乞食根性丸出しですいませんね。

 

あと、終始怒りっぱなしで気分を害されたみなさまにも、この場を借りてお詫び申し上げます。まことに申し訳ございません。

 

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