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ドラッカー入門 万人のための帝王学を求めて

ドラッカー入門といいながら、入門できない

ドラッカーをひとつかみにすることなんてできない

 

著者の上田さんは、ずっとドラッカーとともに生きてきた翻訳家で、ドラッカーをして「私より私の著作に詳しい(意訳)」といわしめた人です。だからこそ、どんなに平易に、一生懸命ドラッカーその人を描こうとしても無理が出てしまうのです。これは、上田さんのせいでも、ドラッカーのせいでもありません。人間というものは、ただ一直線に生きているわけではないので、本という直線上に著作の解説やドラッカーの生い立ちをポツリ、ポツリと置いたところで、その繋がりは見えてこないのです。さらに困ったのが、ドラッカーのその膨大な仕事ぶりです。深淵すぎる知識もですね。96年の生涯で、企業という組織をあぶり出そうとした仕事を、ひとことで言い表すことなんてできません。最近よく見る、「1分でわかる〜」ですとか「超訳」だとかいった作品にはできないです。もとより、それができないからこそドラッカーは原著を出した後も翻訳のたびに徹底した改訂をしてきましたし、読者が購入を諦めるほど大量で、物理的にも読書的にもズシリと重い著作があるのです。1冊の本で語らせるというのが土台無理だったんですね。

 

じゃあ、この本は無駄なのか。そうとも言い切れません。本書が不人気なのは、「手軽にドラッカーを理解して、明日からウハウハ左うちわだぜ!」という人には重たすぎる内容で、「経営の道30年、いまこそドラッカーをもう一度!」というような人物には「軽すぎる」のです。どう軽いかといえば、表面を撫で取るだけで、核心には触れてないんですね。入門だから仕方ないのですが、結局、どの読者にも刺さらなかったということでしょう。

 

私はこの本を、「ドラッカーと歩んだ道」といった名前で、上田さんが出されていたら違ったろうなと思うんです。「帝王学」なんてつけちゃったから、「金儲けのためになんでもする、他人を虐げろ!」って本だと思われちゃったんじゃないかなあと。ダイヤモンド社はもったいないことしたなと。ドラッカーにかこつけて売っちゃえ! と欲が出たのか、それとも上田さんのたっての希望かわかりませんけれども、「ドラッカーの分身、翻訳者上田」として歩んできた、ドラッカーの思想の伝記という形で再編集されていれば、まったく評価は異なったろうと思うのです。

 

なんとなくドラッカーを知っている人のための本

 

本書はドラッカーを知っていて、少しだけ好意的な印象を持っている人のための本ですね。ドラッカーをちょっと読んでみたけど、これからどうしよっかな? という人向けです。ブックガイドとして手に取ることをオススメします。私はエターナルシリーズを買ってから、この本の存在を知り、手に取る順序を間違った! と思ったものですが、自分が読んで、思い描いたドラッカーの解釈と、上田さんの解釈がとてもよく似ていてホッとしました。そういう使い方は稀かもしれませんが、『ドラッカー入門』は、門前に掲げられている看板ではなく、店内のテーブルに置いてあるメニューというほうが近いように思います。

 

この店に入っちゃったけど、思ったような店なのかな? 恐る恐るメニューを開くと、どうやら、思い描いたような店だった。

そんな感じの本なんです。

上田さんのことを、ドラッカー教の宣教師で、経営や金儲けといったコギタナイコトの尖兵であるかのような論調も見受けられますが、そんなことはないんです。もとよりドラッカーって血が通っているんですよ。あたたかな血が間違いなく流れています。何をしてもいいから儲けろ、効率のために血眼になれという、その場限りのテクニック、トリック、数字のマジックを教える最近の「ビジネス書」と一緒にしちゃダメですね。マネジメントは、もっとやわらかなものです。

 

また、同時代に流行した「経済」がわかればどうにでもなるという経済学者の暴論にも組みしません。この辺が難しく、すんなり受け入れられないところなのでしょうが、わかりやすいことが正しいこととは一致しませんし、人間の常識や感覚を現実は何度も裏切ってきましたよね。地球に果てはないし、太陽は地球のまわりを回ってない。マネジメントもそうなんです。多くの人が考える現実像、お金儲けのためには強烈なことをしないといけない、社員をボロ雑巾のように使え。そんなことが書いてあるだろうし、書いてなくてもそういうことだ。という間違ったマネジメント像を打ち破る、ドラッカーの真意を汲むための第一歩、勘違いしたまま入門しないための一冊ですね。

 

蛇足:未来を見通す力を手にするために

 

ちなみに、私が所有しているのは旧版で、サブタイトルは「万人のための帝王学を求めて」なんですが、売れなかったからか新版では「未来を見通す力を手にするために」に改められています。やっぱり「帝王学」なんて言葉は、イメージ的にドラッカーに似合わないんですよね。ますます誤ったイメージを植え付けることになっちゃいますからね。当然の帰結ではなかろうかと。

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